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アセトアミノフェン水増し問題について医薬品製造現場から思うこと

Camel

(2017年6月24日更新)

どうも、医薬品メーカーで働くラクダ@motomotocamelです。

風邪薬や痛み止めに使用されているアセトアミノフェンを製造する国内最大手メーカーが製品を水増ししていたとして問題になっていますね。
色々な立場の方がコメントをしていますが、私も医薬品製造現場で働く者として感じたことを書いてみます。

もちろん嘘をついて出荷していたことは許せることではありませんし、徹底的に調査してもらいたいです。
医薬品に対するユーザーの信頼を取り戻すためには必須だと考えます。

ただ同時に、これからの医薬品業界は辛い時期に入るんだなと感じました。
それは原料メーカーも医薬品メーカーも一緒です。
そして、それはユーザーである患者さんへも必ず影響します。

医薬品業界の現状と未来予想を交えた個人的な雑感ですので、ご興味があれば読んでみてください。

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アセトアミノフェンってどんな薬? 何に使われているの?(2017年6月24日追記)

そもそも、アセトアミノフェンってどんな薬なんでしょう?
あまり聞きなれない名前かもしれませんね。

アセトアミノフェンは1800年代後半から使われている薬です。
主な効果は解熱(発熱を抑える)、鎮痛(痛み止め)で、風邪薬にも使われています。

価格が安く、安全で確実な効果のある薬なので、子ども用の薬としても良く使われています。
開発途上国や被災地に医療援助をする時に使用する必須医薬品リストにも掲載されており、どんな国でも適切な価格で購入できるようにWHOが提言しています。

日本国内でも医療用(処方箋が必要な薬)・OTC(ドラッグストアで買える薬)にかかわらず風邪薬や痛み止めとして使われていますよ。
ただし、開発途上国だけでなく欧米と比べてもアセトアミノフェンの価格が高いと言われています。
海外製と比べて日本製の原薬が高いからかと思います。

世界的に医薬品製造のルールを統一しよう(PIC/S)

現在、医薬品業界では「世界中のルールを統一しよう」という大きな流れがあります。

これをPIC/S(Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operations Scheme :医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム)といいます。
名称を覚える必要はありません。
内容をサクッと説明すると、「他の国で販売されている薬を早く使えるようにしよう。その為に薬を作るためのルールを統一して、そのルールで作られたなら手続きを簡略化しよう」となります。

もっと詳しく正確に知りたい方はPIC/Sの概要について-日本製薬工業協会をご覧ください。

同じルールで作られた薬なら、アメリカで調査しても日本で調査しても結果は同じはずです。
これまでは販売する国で全ての調査をしていましたが、これからは外国で得られたデータでも日本で使えるようになるんです。

世界中にシェアを持つ製薬会社にとっては、海外での売上げを伸ばすチャンスとなります。

しかし、日本でのみ販売している企業にとってはどうでしょうか?

世界に輸出しなくてもルールは世界基準!増大する管理コスト

日本でのみ販売している企業にとって、PIC/Sに準拠したルールを守ることは大きな負担になります。
特に中小企業にはキツイ負担が多いです。
そして、日本のみで販売している企業の大半は中小企業です。

これは企業が怠けていたわけでも、ズルをしていたわけでもありません。

「日本人が日本で作り、日本国内で販売され、日本人が使用する」

このことによって作られていた信頼を根拠に、医薬品を作るルールが作成されていたんです。

世界には薬を配達するトラックが銃を持ったマフィアに襲われ、トラックごと奪われてしまうような国もあります。
奪われた薬は闇市場に流れ、偽物と混ぜて薄められたり、ボトルだけ再利用し偽物を詰めて売られたりしています。

価格を下げるために医薬品の原料として毒物が混ぜられたケースもありました。
パナマにおける謎の疾病
原因はジエチレングリコール-愛知県衛生研究所

FDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)の調査では、悪い実験データは廃棄され、合格するまで同じサンプルで試験していた企業もあったそうです。
最近のFDAはゴミ箱まであさるそうですよ。

日本と世界にある大きな隔たりを感じてくれましたか?
これらは「日本ではありえないこと」とされ、規制されていませんでした。
マフィアや医薬品の闇市場が無いのに、これを取り締まるルールを守らせる必要はないからです。

ただし、これからは違います。
PIC/Sによって世界基準のルールを守ることとなったため、どんなに小さく、日本でしか販売しない企業でも、世界最大規模の企業と同レベルの管理が求められます

もともと世界で販売していた企業では既にノウハウがあります。
ITを導入することで効率性を上昇させ、管理コストを抑えることができます。
さらにITは複数の工場で生産し、多くの国に支店を持ち、売上数が大きいほど効果を発揮します。

対して、日本でのみ販売していた企業はどうでしょう?
もちろんノウハウはありません。
1千万以上するシステムを導入するのも難しいでしょう。
しかも使いこなせるかは不明です。

日本のみで販売している企業にとって、世界基準のルールに対応することはハードルが高いことなんです。
管理コストが上がっても、利益が上がるわけではありませんしね…

(もちろん信頼性は上がりますのでユーザーには良いことですね)

医薬品はただの化学物質!スケールメリットが大きい産業

医薬品っていうと、「何か凄いもの」と思いませんか?
けれど中身は普通の化学物質なんです。
化学物質にラベルをつけてたら医薬品に早変わりです。
(ラベルをつけるために大変な思いをしているわけですが…)

化学物質の製造は1回で作る量が多いほど劇的にコストが下がります。
世界中で使用されている薬ですら1つの工場で作っているものもあります。
それほどまでに大量生産、薄利多売な世界です。
(昔から使われている薬が顕著です)

今回水増しがあった薬の原料(原薬)も同じです。
同じどころかもっと薄利多売でしょう。
原薬の世界は人件費の安いインドや中国の独壇場と言っても過言ではないでしょう。

アセトアミノフェンは世界でもトップクラスに汎用されている薬です。
海外に住んでいる方だと、パラセタモールという名前の方がわかるかもしれませんね。
風邪薬、解熱剤、痛み止めと日本だけでも物凄い量のアセトアミノフェンが消費されています。
そして、このように昔からあって安定して作る方法が確立されている上に大量に消費される物質こそ大量生産に向いているのです。

それは、今回の件からもわかります。
原料を輸入して日本で生産するよりも、中国から製品を輸入した方が安いんです。
だからこそ、中国産のアセトアミノフェンを混ぜて水増ししたのです。

驚きなのは中国産を混ぜた割合です。
その量、たったの1〜2割。
1割混ぜるだけで価格に大きな影響が出るほどの価格差があるという事実に驚きました。
リスクを負ってでもやらざるを得ないほどの大きさです。
日本国内シェア8割の企業ですら、ここまで不利な勝負をしているわけです。

今後10年の医薬品業界

今後10年で国内の医薬品業界は再編が進むと予想します。
世界基準のルールに対応するため、年々管理コストが増大するからです。
耐えきれなくなった企業から吸収合併がおこなわれます。

平成27年に厚生労働省が発表した『医薬品産業強化総合戦略』では、医薬品は成長産業の柱とされています。

資源の少ない日本では、知識集約型産業である医薬品は成長させなければならない重要な産業です。
特に新薬の開発は企業にとっても、ユーザーにとっても恩恵があります。

近年、新薬の価格は高騰しています。
2016年に問題となった『オプジーボ』は、当時月2回の治療で約260万円かかりました。
毎月260万円ですよ。
患者1人あたり年間3,000万円強がかかる計算です。

新薬の価格は上昇していますが、支払える医療費には制限があります。
高齢化による患者数の増加により年々高騰する医療費はできる限り抑制する必要があります。
どこで医療費を抑制するかというと、長年愛用されている医薬品です。
(アセトアミノフェンのような)

上記の戦略では、新薬ではない医薬品は安定供給とともに安価な製品の使用促進が掲げられています。
単純にジェネリック医薬品へ変更するだけでは難しいでしょう。
海外製のジェネリックが普及すると考えます。
人件費の安い国でPIC/Sのルールに則って作られたジェネリックです。
これらは世界基準の質を持った安いジェネリックでしょう。

日本には経営規模の小さい製薬企業が多数存在します。
特にジェネリック業界には多いです。
体質強化が課題だと言われていますが、しろと言われてできるようなものでもないでしょう。
できるなら、言われなくても体質強化したいでしょうし。

ジェネリックの普及と世界基準のルール対応によって、多くの企業が辛い立場になっていくはずです。
中には耐えられない企業も出てくるでしょう。
そうして統廃合が進み、海外製と同レベルの医薬品を使用することとなります。

日本人の細かな要求に対応できる日本品質の薬は駆逐されてしまうかもしれません。
日本人の使いやすさを最大限に叶えた薬ではなく、どこの国にも平均的に受け入れられる薬が増えていくかもしれません。

会社説明の「生産が間に合わずに…」を受けて思うこと(2017年6月23日追記)

ニュースサイトにて下記の記述があったので、これを受けて思うことを追記しました。

会社側は「注文が相次いで製造能力を超えてしまい、数年前から中国製を輸入するようになった。国産数ロットにつき中国製1ロットを混ぜて出荷していた」と説明したという。
風邪薬原料、中国製で水増し=和歌山のメーカー、業務停止へ -時事ドットコム

アセトアミノフェンの需要が急増?なにか要因あったっけ?

はじめに思ったことは、「ここ数年でアセトアミノフェンの需要が急増する事件でもあったっけ?」だ。
アセトアミノフェンのように古くからあって、今でも大量に使われている医薬品が急に供給能力をオーバーする事態になるかな?

例えばトイレットペーパーの需要が急増することって考えられる?
1人が1日に使う量なんて大きく変わらないだろうし、人口が2倍3倍と増えるわけでもないだろうし。
あるとしたら『トイレットペーパーの新しい使い道を発見』くらいかなーと思う。
イノベーションってやつ。
アセトアミノフェンなら新しい薬効の追加とかかな。
あったのかなー?

それ以外には「ありえるとしたらジェネリックの普及か?」と思ったけど、あれは先発のシェアをジェネリックが奪うわけだから、原薬の需要が伸びるわけでもないよなぁ。

海外からの需要も、「わざわざ人件費の高い日本から買うか?」って感じだし。

震災などで需要が急増したなら国内のもう1社と受注を分け合うくらいはするだろうし、それこそ中国産のアセトアミノフェンを正式に買ってもいいわけだ。

「価格で勝負できなくて…」なら理解できるんだけど、「需要が伸びて」ってのピンとこないなぁ。
追加情報が出るのを期待。

中国の生産能力の高さが凄い!同じことできる日本メーカーあるかな?

水増しって言葉から「もともとのアセトアミノフェンに中国産の物を混ぜて、合わせて1つのロット(生産単位)として売っていた」のかと思ったら違うみたい。
自社品と偽って中国産のアセトアミノフェンを売っていたらしい。
国産数ロットにつき中国製1ロットを混ぜて出荷していたって。

こっちの方が嫌じゃない?

例えば、「ドクターペッパーの在庫が余ったからコカコーラに10%混ぜて売っちゃいました」だったら気がつかなそうだし、少しずつドクターペッパーの割合を増やして最終的に10%なら試験にも通りそう。

でも、「コカコーラ注文したら10回に1回はドクターペッパーが届きます」って言われたら嫌だよね?
ドクターペッパーは好きだけど、コカコーラ飲みたい時にドクターペッパー来たら「違う!」って怒るもん。

驚きなのは、10回に1回中国産のアセトアミノフェンを出荷しても誰も気がつかなかった程の中国工場の生産能力の高さ。

20項目の試験をしたとして、その全てが日本産と同じって驚異的な気がするんだけど。
試験は出荷時に自社でおこなうだけでなく、受け入れた医薬品メーカーでもするだろうし。
合格だけでなく、過去のアセトアミノフェンと比べておかしくないかってこともみるだろうし。

試験に合格させるだけなら簡単だけど、過去の製品と比べて全てが同じってデータを出し続けられるってことだもん。
違う国で違う設備を使って、粒の大きさやら溶けやすさなんかの物理学的特性まで合わせてきたってこと(試験項目は知りません)。
どうやったらそこまで模倣できるかわかりません。

この出荷方法で気がつかれていなかったなら、中国産のアセトアミノフェンも品質上は本当に問題ないんだろうなぁ。

しっかし、なんで化血研の事件の時になんとかしなかったかなぁ?
品質上は問題ないんだから、申請してたら違っただろうに…

まとめ

まぁ、ヨダレをたらすことだけが特技のラクダが言うことですので、当たるも八卦当たらぬも八卦です。

思い立ったことを書いていたらまとまらなくなってしまった…
しかも、書きたいと思ったことの半分くらいしか書けてないっていうね。

ニュースを聞いて思ったことはこんな感じです。

Camel

こんな人間が書いています。
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